制御盤や産業機械において、最も基本的でありながら重要な操作部品の一つが押しボタン(プッシュボタン)です。
機械の始動・停止、非常停止、リセットなど、多様な役割を担うため、誤った選定は安全性や操作性の低下につながります。
本記事では、押しボタンを選定する際に押さえるべきポイントを解説します。
これから制御盤設計や電気設計に携わる方はもちろん、現場で部品選びを行う方にも役立つ内容です。
押しボタン(プッシュボタン)とは

押しボタンとは、人が手動で機械を操作し電気信号を入力するためのスイッチです。
回路図では PB(Push Button) と表記されるのが一般的で、制御盤設計においては欠かせない存在です。
代表的な用途は次の通りです。
- 機械設備の始動・停止操作
- 緊急時に用いる非常停止ボタン(E-Stop)
- 運転モードの切替やリセット入力
単純な構造ながら、人の安全確保と設備の確実な制御に直結する重要部品です。
押しボタン選定で確認すべき5つのポイント
1. 用途・機能で選ぶ
押しボタンは、色や形状によって用途が明確に区別されます。代表例は以下の通りです。
- 始動ボタン:緑色または白色が一般的
- 停止ボタン:赤色が一般的
- 非常停止ボタン:赤色、大型、押し込みロック式
- リセットボタン:青色など
色・形状を正しく選定することで、誤操作防止と操作性・安全性向上につながります。
2. 接点構成で選ぶ
押しボタン内部には接点が組み込まれており、動作方式によって以下の種類があります。
- a接点(NO:常時開) → 押した時に導通する
- b接点(NC:常時閉) → 押した時に遮断する
- c接点(a,b切替接点) → 始動と停止など複数制御に利用可能
制御回路に合わせて接点の種類と数を確認して選定しましょう。
3. 動作方式(モーメンタリ/オルタネイト)で選ぶ
押しボタンは「押した時の動作保持方法」によって、次の2種類に分かれます。
- モーメンタリ(Momentary)
→ 押している間だけ接点が動作し、離すと元に戻る。
例:スタートボタン、リセットボタン
用途:一時的な信号入力が必要な操作 - オルタネイト(Alternate)
→ 一度押すと接点が切り替わって保持され、再度押すと元に戻る。
例:モード切替ボタン、ON/OFF切替スイッチ
用途:状態を保持し続けたい操作
制御盤では「モーメンタリ」が主流ですが、モード切替などの操作には「オルタネイト」が使われることがあります。用途に応じて選定しましょう。
4. 設置環境で選ぶ
押しボタンは設置場所によって要求性能が大きく変わります。
- 防水・防塵性能(IP規格)
例:IP65以上は屋外や粉塵環境に適用 - 使用温度範囲
例:寒冷地や高温環境では仕様確認が必須 - 耐久性(機械的・電気的寿命)
例:高頻度で操作されるラインでは長寿命タイプを推奨
設置環境に適合していないプッシュボタンは、誤作動や早期故障の原因になります。
5. 操作性・視認性で選ぶ
現場での操作性も重要です。
- サイズ・形状:手袋を装着したままでも押せるか
- 照光式か非照光式か:状態表示を兼ねる場合は照光式が有効
- ロック機能:非常停止ボタンは押し込みロック付きが必須
操作者の作業環境を考慮したプッシュボタンを選定することがポイントです。
6. 規格・安全性で選ぶ
押しボタンは安全規格適合が求められるケースも多くあります。
- CEマーク・UL認証:海外輸出機器では必須
- ISO・JIS規格対応:国内外の安全基準に準拠
- 機械指令や労働安全衛生規則への適合:法令遵守の観点から重要
特に非常停止ボタンは、規格に準拠した製品を選定することが強く推奨されます。
メーカーごとの押しボタン比較
富士電機
- 呼称:コマンドスイッチ
- 代表シリーズ:AR22シリーズ、AR30シリーズ
IDEC(アイデック)
- 呼称:押しボタンスイッチ
- 代表シリーズ:HWシリーズ、XA/XWシリーズ
オムロン(OMRON)
- 呼称:押ボタンスイッチ
- 代表シリーズ:A22シリーズ、A16シリーズ

各メーカーの製品名です。良ければ参考にしてください
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押しボタン選定のまとめ

押しボタン(プッシュボタン)は、単純なスイッチに見えますが、機能・接点構成・設置環境・操作性・規格といった観点を考慮して正しく選定することが不可欠です。
誤った選定は誤操作や機械トラブル、さらには作業者の安全リスクに直結する可能性があります。
制御盤や産業機械に用いる際は、「用途」「環境」「規格」を軸に慎重に比較・検討しましょう。
押しボタンの選定を適切に行うことで、安全性と信頼性の高い設備運用が可能になります。