工場や生産現場で使用される工作機械や制御盤は、常に粉塵、油ミスト、水しぶきなど過酷な環境にさらされています。
こうした環境下で安全かつ長期間にわたり機器を使用するためには、適切な防塵・防水性能を備えた機器を選定することが不可欠です。
その基準となるのが「IPコード(International Protection Code、防水防塵等級)」です。
本記事では、
IPコードの基礎から、工作機械や制御盤においてなぜ重要なのか、具体的な選定ポイントや現場事例を交えて解説します。
特に、安全性の確保と設備保護という観点から、エンジニアや保全担当者が押さえておきたい内容をまとめました。
IPコード(IP保護等級)とは?
IPコード(IP保護等級)の定義
IPコードは、国際電気標準会議(IEC 60529)で規定された防塵・防水性能を示す規格です。
日本では、JIS規格(JIS C 0920)として採用されています。
「IP」の後に続く2つの数字で性能を表します。

第一特性数字(防塵保護等級)
危険な箇所への接近及び、外来固形物に対する保護レベル。
保護等級を「0~6」の7段階の数字または文字「X」で示しています。
ここでいう外来固形物とは、塵(ごみ・ほこり)のことを指しています。

第二特性数字(防水保護等級)
水の侵入に対する保護レベル。
保護等級を「0~9」の10段階の数字または文字「X」で示します。
(9はIEC60529のみ対象)
水の侵入を防ぐ防水性能のレベルを示しています。

IPコードを具体例で理解する
IPコードの理解を深めるには、実際の等級を例に見るのが一番早いです。
ここでは制御盤や機械でよく登場する IP20、IP54、IP65、IP67 の4つを比較しながら解説します。
IP20:屋内の制御盤などで一般的な保護等級
「IP20」は、直径12mm以上の固形物(指など)が内部に入らないという意味を持ちます。ただし、防水性能はまったくありません。
そのため、密閉されていない制御盤や、乾燥した屋内環境の機械装置などに使われることが多いです。
換気が必要な制御盤、電気室内の盤などでよく採用されます。
IP54:粉塵や水滴への一定の耐性がある中間グレード
「IP54」は、粉塵の侵入をある程度防ぎ、あらゆる方向からの水の飛まつにも耐えられるレベルです。
工場内のように粉塵が多く、時々水を使う環境では、この等級を目安にすると安心です。
部品組立エリアや工作機械の操作盤などに多く採用されています。
IP65:完全防塵+あらゆる方向からの噴流水にも耐える
「IP65」は、粉塵の侵入を完全に防ぎ、水の噴射にも耐える高い保護性能を持ちます。
屋外設置の制御盤や、定期的に水洗いされる装置ではこのレベルが求められます。
食品工場、屋外コンベア装置、給水ポンプ制御盤などに使われます。
IP67:完全防塵+一時的な水没にも耐える
「IP67」は、完全防塵構造に加え、一時的な水没(約30分間、1m深さ)にも耐える最高クラスの防水性能です。
水辺や屋外での設置、または洗浄を頻繁に行う環境に最適です。
屋外センサー、ロボット機器、屋外制御ボックスなどで採用されています。
工作機械と制御盤に求められる環境耐性
工作機械の環境
旋盤、マシニングセンタ、研削盤などの工作機械は、切削油やクーラントの飛散、金属粉、粉塵といった要因に常にさらされています。
これらの工作機械は、過酷な環境下であっても機械が正常にうごく信頼性が求められています。
粉塵や切削油が機械内部に侵入すると、電子機器にに悪影響を及ぼします。これらは機械の誤作動、故障、寿命短縮の原因になります。
制御盤の環境
制御盤は機械の心臓部ともいえる存在で、PLC、リレー、電源ユニット、インバータなどが収められています。
制御盤が湿気や粉塵に弱いと、誤動作による生産ライン停止や感電事故につながる可能性もあります。
したがって、制御盤に使用する機器にはIPコードを考慮することが不可欠です。
なぜ制御盤でIPコードが重要なのか?
設備保護の観点から
粉塵対策
金属粉や切削粉がモータやセンサーに侵入すると故障の原因となる。
よって、IP5X以上が望ましい。IP5Xとは、粉塵の侵入を完全に防止することはできないが、機器の正常な運転を妨害しないレベルの防塵性能である。
水対策
切削油や冷却水がかかる環境ではIPX4以上、直接水を浴びる場合はIPX5以上が推奨されます。
IPX4では、あらゆる方向からの水の飛沫によっても有害な影響を受けないレベルの防水性能です。
IPX5とは、あらゆる方向からの水の噴流によっても有害な影響を受けないレベルの防水性能です。
安全性の観点から
制御盤や工作機械に水や粉塵が侵入すると、短絡や感電のリスクが高まります。
特に制御盤は高電圧を扱う場合もあり、保護等級の低い機器を使うと作業者の安全に直結する事故を招く恐れがあります。
コンプライアンス・規格対応
食品工場やクリーンルームなど特定の業界では、衛生基準や国際規格によってIP規格の要件が求められることもあります。
例えば、食品加工機械では水洗い清掃が可能なIP67以上が指定されるケースがあります。
機械設備でのIP選定ミスによるトラブル事例
事例1:制御盤の冷却ファンからの粉塵侵入
IP20相当の冷却ファンを使っていた制御盤に粉塵が堆積し、基板のショートでライン停止。
IP20の防塵性能は、「直径12.5mm以上の外来固形物の侵入に対して保護されている。」状態です。これではファンから粉塵が制御盤内に入ってしまいます。
対策としてIP54のフィルタ付ファンに変更することで解決しました。
事例2:工作機械センサの水侵入
IP54の近接センサを使用していたが、切削油がかかり誤作動を多発。
IP54の防水性能は、「あらゆる方向からの水の飛沫によっても有害な影響を受けない」状態です。これではセンサに切削油が直接かかってきたときに、油の侵入を防げません。
IP67以上のセンサに切り替えることで、トラブルは解決されました。
選定時のポイント
設置場所を考慮
機器の設置位置によって要求IPコードは変わります。
屋外に設置する場合は、雨に濡れることは避けられません。また、砂ぼこりやMP2.5など粉塵の影響も大いに受けます。最低でもIP55以上の保護をする必要があると判断できます。
また屋内であっても湿気の有無、加工油など判断基準は様々です。
必ず使用する環境において考えられる影響を考慮して、防護性能を決定する必要があります。
排熱できる設計
保護等級をあげると中の機密性が高まり、制御盤などの換気不足に繋がります。
制御機器は動かし続ければ熱を持ちます。必ず冷却しなければなりませんが、通気性が悪くなると冷却性も悪くなります。
機器の冷却性能も維持する設計も必要です。
コスト
当たり前ですが、保護等級は高くなると性能が良くなります。しかし、機器の価格も高くなってしまいます。
IP67以上は保護性能が非常に高いです。大抵のケースにおいて十分な保護レベルであると言えます。
だからといって高価なIP67を毎回しようしていると、必造コスト増に直結します。IPコードは必要レベルを考えて適切なものを選定しましょう。
まとめ

工作機械や制御盤におけるIPコードの重要性は、単なる「防水・防塵」だけでなく、設備の信頼性・安全性・長期稼働に直結しています。
工作機械では切削油・粉塵対策としてIP54以上が基本。 制御盤では感電事故防止や誤作動防止のためIP44〜IP65が目安。 食品工場など特殊環境ではIP67以上が求められる。
つまり、「環境に合ったIPコードを選ぶことが、設備保護と作業者の安全を守る第一歩」です。
エンジニアや保全担当者は、導入する機器のIPコードを常に確認し、用途に応じた最適な選定を心がけましょう。
これが結果として、工場全体の稼働率向上とコスト削減につながります。
参考文献
本記事は、日本産業規格「JIS C 0920」を参考に作成されています。(2025/09/06時点)
JISC 日本産業標準調査会